「娘がプログラミングに全然興味を持ってくれなくて……」
こういう声を、保護者の方からよく聞きます。息子は喜んでタブレットに向かうのに、娘は「難しそう」「私には向かない」と言ってそっぽを向く。授業でも女の子はどこか遠慮がちで、男の子がリードする場面が多い——そんな経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
これは、気のせいでも娘さんの個性でもありません。データが示す、構造的な問題です。
コエテコ総研byGMOが2022年に行った調査では、民間の子ども向けプログラミング教室に体験申し込みをした子どもの性別は、男子が81.8%、女子が18.2%でした。この「8対2」の比率は、小中高大から社会人まで、IT分野全体でほぼ固定化していると指摘されています(コエテコ総研byGMO「民間の子ども向けプログラミング教育の実態調査」2022年)。
なぜこの差が生まれるのか。そして今日から何ができるのか。この記事では、研究データをもとに解説します。
小学校プログラミング教育における女子参加率の実態——数字が示す深刻なギャップ
まず、現状のデータを整理します。
日本のジェンダーギャップ指数は2025年、世界148か国中118位で、G7最下位の水準が続いています(世界経済フォーラム「グローバル・ジェンダーギャップ・レポート2025」)。教育分野では72位と比較的低い順位にとどまっており、その主な要因として高等教育における男女の進路格差——特に理系分野に進む女性の少なさ——が指摘されています(国際NGOプラン・インターナショナル「GIRLS LEADERSHIP REPORT 2025」https://www.plan-international.jp/press/20250327/)。
そしてこの格差の出発点が、小学校時代にあることがデータから見えてきます。文部科学省が2024年に公表した研修資料では、子ども向けプログラミングスクールへの体験申し込みにおいて女子は18.2%にとどまるという数値を引用し、IT分野のジェンダーギャップ解消に向けた早期教育の重要性を訴えています(文部科学省「未来を創る情報技術教育におけるジェンダー平等について」2024年8月 https://www.mext.go.jp/content/20240927-mxt_jogai01-000036931_002.pdf)。
女子がプログラミングに興味を持ちにくい理由——ジェンダーステレオタイプの仕組み
「女の子はプログラミングが苦手」「理系は男の子のもの」——こうした思い込みは、子ども自身の意識にも早期から影響を与えます。
京都大学の森口佑介准教授らの研究グループが行った調査では、日本の4歳から7歳の子どもを対象に、「男性=賢い」というジェンダーステレオタイプがいつ頃から生まれるかを検証しました。その結果、7歳頃(小学校入学直後)から「男性=賢い」というステレオタイプが見られる可能性が示されました(京都大学「子どものジェンダーステレオタイプが生じる時期を解明」2022年)。
小学校でプログラミング教育が始まる時期に、すでにこうした思い込みが芽生え始めているのです。このステレオタイプは、女子が「プログラミングは自分向けではない」と感じる遠因となります。
米シカゴ大学の研究では、「男子の方が数学が得意」というステレオタイプを聞かされた女子大学生は、そうでないグループと比べて数学テストの成績が下がったことが示されています。ステレオタイプに関する不安が作業記憶を圧迫し、本来の能力を発揮できなくなるという仕組みです(Journal of Experimental Psychology: General 掲載研究 ※URL要確認)。
つまり「女の子だからプログラミングが苦手」なのではなく、「プログラミングは男の子のもの」という環境・思い込みが苦手意識を作り出しているのです。
女子のプログラミング参加意欲を高めるための具体策——保護者ができること
ではどうすればいいのでしょうか。禁止も強制もしなくていい。大切なのは「入り口の設計」です。
策①:「作りたいもの」から入る
日本教育工学会に収録された女子小学生を対象としたプログラミングワークショップの研究では、女子はインタラクティブな反応制御よりも、イラストの描画や動画制作に興味関心が向く傾向が示されています(日本教育工学会「女子を対象としたプログラミング・ワークショップの実践と定性調査」2020年)。
Scratchでのアニメーション制作、デジタルイラストを動かすプログラム、音楽リズムの作成——「何かを作って見せたい」という動機から入ると、女の子はプログラミングへの抵抗感が格段に下がります。「プログラミングをやろう」ではなく「こんなものを作ってみよう」という誘い方が効果的です。
策②:女性エンジニアやクリエイターを「身近な存在」として見せる
ロールモデルの不在は、女子がプログラミングを「自分ごと」として捉えにくい大きな要因です。「プログラミングで活躍している女性」の存在を伝えることが、将来像のイメージを広げます。YouTubeのクリエイターやアプリ開発者に女性が多くいることを一緒に調べるだけでも、「自分もできるかも」という気持ちが芽生えます。
策③:「難しそう」という言葉を親が使わない
子どもは親の言葉から無意識に価値観を形成します。「プログラミングって難しそうだね」「お父さんもよくわからない」という言葉が、娘の苦手意識を強化することがあります。「一緒にやってみよう」「どんなことができるんだろう」という好奇心ベースの言葉かけが、入り口を広げます。
策④:女子限定・少人数の体験イベントを探す
男女混合の環境では、男子がリードしがちで女子が遠慮してしまうことがあります。女子だけのプログラミングワークショップや少人数教室を選ぶことで、心理的な安心感が生まれ、積極的に参加しやすくなります。文部科学省やNPO法人Waffleなどが女子向けのSTEM教育イベントを開催しています。
深掘り①:IT分野の「8対2」比率はなぜ固定化するのか
ここで一つの疑問が生まれます。小学校でプログラミングが必修化されたのに、なぜ男女比は変わらないのでしょうか。
必修化によって全員がプログラミングを経験するようになった一方で、「好きで続ける」「もっと深く学ぶ」という選択は依然として男子に偏っています。この背景には、授業外での環境差があります。男の子はゲームやデジタル機器に触れる時間が長く、プログラミングへの心理的な親しみが先に育つ傾向があります。
IT・プログラミング分野のジェンダーギャップ解消を目指すNPO法人Waffleの調査によると、女子中高生のITへのイメージとして「難しそう」が33%、「理系分野」が27%と、ネガティブまたは自分とは遠い分野というイメージが根強いことが示されています。このイメージが形成されるのは、中高生になってからではなく、小学生の頃からの積み重ねです。
つまり、必修化は「全員が経験する機会」を作りましたが、「全員が興味を持てる環境」はまだ整っていません。授業の設計と家庭での働きかけの両方が必要です。
深掘り②:教員の関わり方が女子の参加意欲を変える
みんなのコードが2021年に実施したプログラミング教育実態調査では、教員が7時間以上の研修を受けた場合と、1時間未満または研修なしの場合とで、児童のプログラミングへの関心度合いに大きな差が出ることが示されています(NPO法人みんなのコード「プログラミング教育実態調査」2021年 https://code.or.jp/news/20211202/)。
特に女子の参加意欲という観点では、教員の「声かけの質」が重要です。「できた?」「わかった?」という確認ではなく、「どうやって考えたの?」「次は何を試してみたい?」という問いかけが、女子の思考を引き出します。また、女子が積極的に発言できる場をグループワークの中で意図的に作ることも有効です。
家庭と学校が同じ方向を向くことで、女子のプログラミングへの意欲は確実に変わります。
実体験:「私には難しい」と言っていた女の子が変わった瞬間
ある体験授業でのことです。小学5年生の女の子が最初の30分間、「私には難しい」「わからない」と繰り返しながらもじもじしていました。男の子たちが楽しそうにブロックを組み合わせている隣で、彼女はタブレットを前に手が止まっていました。
転機は「好きなキャラクターを動かしてみよう」という課題に変えた瞬間でした。彼女は好きなアニメのキャラクターをScratchに取り込んで、音楽に合わせて踊らせることに挑戦し始めました。気づけば誰よりも夢中になって、授業終了後も「もっとやりたい」と言い続けていました。
「難しそう」と感じていたのは、プログラミングそのものではなく、「自分にとって意味がある使い方」がまだ見えていなかったからでした。入り口の設計を変えるだけで、これほど変わります。教材を作る立場から実感してきたことです。
「女の子はプログラミングが苦手」という思い込みが、静かに差を広げていく
今、小学校の教室で起きていることを想像してみてください。同じ授業を受けながら、「自分にはできる」と感じている男の子と、「難しそう」と遠慮している女の子が隣に座っています。
この差は今日のテストには出ません。でも中学・高校で理系の選択をするとき、大学で情報系の学部を考えるとき、就職でIT分野に踏み出すかどうかを決めるとき——じわじわと広がります。「8対2」という比率は偶然ではなく、小学生の頃からの積み重ねが作り出した構造です。
この構造を変えられるのは、今の保護者と教員です。
小学校プログラミング教育と女子の参加に関するよくある質問
Q1. 娘がプログラミングに全く興味を示しません。無理にやらせた方がいいですか?
無理強いは逆効果です。「何かを作る手段」としてプログラミングを提示する方が効果的です。娘さんが好きなこと(イラスト・音楽・ストーリー作り)とプログラミングを組み合わせた体験から始めてみてください。興味の入り口は人それぞれです。
Q2. 学校の授業でも女子が消極的です。教員として何ができますか?
グループワークで女子が発言できる場を意図的に設けること、「できた?」ではなく「どう考えた?」という問いかけに変えること、女性エンジニアの事例を授業に取り入れることが有効です。教員の声かけ一つで女子の参加意欲は変わります。
Q3. 女子向けのプログラミング体験イベントはありますか?
NPO法人Waffleが中高生女子向けのイベントを定期開催しています。また文部科学省が推進するSTEM教育支援の枠組みでも女子向けの取り組みが増えています。地域の図書館や科学館でも女子向けワークショップが開催されることがあります。
Q4. 男女で得意なプログラミングの種類は違いますか?
得意・不得意は個人差が大きく、性別で決まるものではありません。ただし研究では、女子はアニメーション・イラスト・音楽系の課題に関心を持ちやすく、男子はゲーム・ロボット操作に関心を持ちやすい傾向が示されています。この傾向を踏まえた「入り口の設計」が効果的です。
Q5. 親自身がプログラミングを知らなくても、女の子のプログラミング意欲を育てられますか?
育てられます。最も重要なのは「一緒に面白がる姿勢」です。「お母さんもやってみよう」という姿勢が、娘に「自分もできる」という感覚を与えます。プログラミングの知識より、好奇心のモデルを見せることの方が大切です。
女の子がプログラミングを楽しめる社会は、今の大人が作る
IT分野の「8対2」という比率が固定化したまま次の世代に引き継がれれば、日本のジェンダーギャップはさらに広がります。この比率を変えるための第一歩は、小学生の女の子が「プログラミングは自分のものだ」と感じられる体験を作ることです。
難しいことをする必要はありません。娘さんの好きなものをプログラミングと結びつけること、「一緒にやってみよう」と誘うこと、「難しそう」という言葉を使わないこと——今日からできる小さな変化が、じわじわと積み重なって大きな違いを生みます。
ここまで読んで、少し焦りを感じた方もいると思います。それは正しい感覚です。
難しく考えなくていいです。今日から一つずつ始めれば間に合います。くむすたでは、女の子も楽しめるように設計されたプログラミング教材と体験プログラムを提供しています。「うちの子に合うかどうか」を確かめるための無料体験もご用意しています。ぜひお気軽にお問い合わせください。