「うちの子、プログラミングって学校でちゃんと習っているの?」
そう思ったことがある保護者の方は、少なくないと思います。2020年に小学校でプログラミング教育が必修化され、もう6年が経ちました。でも、子どもの口からプログラミングの話が出てきた記憶がない。授業参観で見た記憶もない。そんな方が大半ではないでしょうか。
実は、その感覚は正しいのです。
本日、私はある教育行政の担当者と直接お話をする機会がありました。現場の実態を聞いて、正直なところ、言葉を失いました。必修化から6年が経った今も、状況は2020年当時とほとんど変わっていないというのです。
この記事では、その対話から見えてきたこと、そして私がエンジニア・経営者として感じた構造的な問題を、できる限り誠実に書きます。批判のための記事ではありません。現場の方々は皆、誠実でした。問題は、現場ではなく、仕組みそのものにあると思っています。
必修化から6年、小学校プログラミング教育の現状
2020年、文部科学省は小学校学習指導要領を改訂し、プログラミング教育を必修化しました。目的は「プログラミング的思考(論理的に物事を考える力)」を育てることとされています。
しかし、ここで重要なのは「必修化=充実した授業」ではないという現実です。
文部科学省の定義では、プログラミング教育は「既存の各教科の中に組み込む形」で実施されます。つまり、算数や理科の授業の一部としてプログラミング的思考を取り入れる、という位置づけです。独立した教科ではありません。
この設計が、現場に大きな歪みをもたらしています。
現場では年に1〜2回しか実施されていない?
行政担当者との対話の中で、最も印象に残った言葉があります。「プログラミングについては、ほとんどの先生が十分な理解を持っていない。例えば、年に1回か2回しか使わないような教材に、大きな予算はかけられない。」
年に1〜2回...これが今の小学校プログラミング教育の実態なのかもしれません。もちろん、学校や地域によっては異なるとは思われますが、これまで私がいろいろお聞きしたところかも、そうかけ離れていないと感じます。
文部科学省が2023年に実施した「学校における教育の情報化の実態等に関する調査」によれば、プログラミング教育の実施状況には学校間で大きなばらつきがあり、十分な授業時間を確保できていない学校が多数存在することが示されています。必修化はされたが、形骸化しているというのが正確な表現です。
先生たちも苦しんでいる
誤解してほしくないのですが、これは先生たちのせいではありません。
そもそも現役の先生の多くは、プログラミングを学んだ経験がない世代です。自分が学んでいないものを教えることの難しさは、想像に難くありません。研修の機会も限られており、授業準備にかけられる時間も慢性的に不足しています。
OECDの調査(TALIS 2018)では、日本の教員の週あたり勤務時間は参加国中で最長水準であることが示されています。余裕のない現場に、新しい教科への対応を求め続けることには、構造的な無理があります。
プログラミング教育の予算と体制に何が起きているのか
今回、私は生徒50名が1年間使える学習パッケージを、10万円を下回る価格で提案しました。企業としては、採算ギリギリの価格設定です。
しかし、担当者の答えはこうでした。「年に1〜2回しか使わないものに10万円の予算は通らない。それならば、1〜2万円の謝礼で外部講師を呼ぶ出前授業の方が現実的だ。」
この言葉は、批判ではなく、現場の正直な現実だと受け取りました。担当者自身、とても悔しそうな表情でそう話してくれました。「本当はもっとやりたい」という気持ちが伝わってくる対話でした。
地方行政は「現場の最前線」にいる
ここで理解しておく必要があるのが、地方行政の立場です。
地方行政は、国の方針を受けて各学校を支える機関です。子どもたちに最も近い行政組織として、現場の声を誰よりもよく知っています。しかし、予算の大枠は国・都道府県が決める仕組みであり、自治体の地方行政本部が独自に動ける範囲には限界があります。
現場をよく知っているからこそ、もどかしさも大きい。今回お話しした担当者の方が悔しそうな表情を見せていたのは、まさにそこだと感じました。問題の所在は、現場ではなく、国の施策設計と予算配分の仕組みにあります。
GIGAスクール構想の「その後」
2019年に打ち出されたGIGAスクール構想では、1人1台の端末整備と高速ネットワーク環境の構築が進められました。ハードウェアへの投資は確かに行われました。
しかし、端末を使って「何をどう教えるか」というソフト面・人材面への投資は、大きく立ち遅れています。文部科学省の調査でも、ICT活用の研修機会の不足や、教員のスキルにばらつきがある実態が報告されています。箱だけ用意して、中身が追いついていない状態です。
年1〜2回の授業でプログラミング的思考は育つのか?
正直に言います。育ちません。
プログラミング的思考とは、問題を分解し、順序立てて考え、試行錯誤しながら解決策を見つける力のことです。これはスポーツや楽器と同じで、繰り返しの実践によって初めて身につくものです。
年に1〜2回の体験で身につくものではない。この点については、教育研究の分野でも広くコンセンサスがあります。
「体験した」と「身についた」は別物である
子どもがScratchを1回触ったことがあるとします。それは「体験」です。でも、自分でゲームを設計して、バグを発見して、修正して、完成させる。そのプロセスを経て初めて「思考力」が育ちます。
現状の年1〜2回という頻度では、「体験したことがある」という事実は生まれますが、思考の型は育ちません。必修化の目的として掲げられた「プログラミング的思考の育成」が、実質的に達成されていないのが現実です。
出前授業モデルの限界と構造的問題
「年2万円の出前授業で済ませたい」という現場の声は、コスト面では理解できます。しかし、このモデルには本質的な限界があります。
出前授業は、外部講師が単発で教えに来るモデルです。講師が帰った後、子どもたちが自分で続けられる環境は残りません。先生が次の授業を組み立てる土台にもなりません。
つまり、「やった」という記録は残っても、「学びが積み重なる」という教育本来の目的は達成されにくい構造です。
継続性のない教育は教育ではない
私がエンジニアとして現場で見てきた中で、はっきりと言えることがあります。技術は継続によってしか身につかない。1回の講座で変わる人間はいない。変わるのは、繰り返しの中で「自分でできた」という経験を積み重ねた子どもだけです。
出前授業を否定したいわけではありません。きっかけとしては意味があります。ただ、それだけで「プログラミング教育を実施した」とカウントされる現在の仕組みには、根本的な見直しが必要だと感じています。
AI時代に広がる教育格差|今のままでは何が起きるか
ここで少し立ち止まって考えてほしいことがあります。
今、民間の習い事では、プログラミングスクールやAI活用教育が急速に広がっています。経済的に余裕のある家庭の子どもは、放課後に週1〜2回、継続的にプログラミングやAIを学んでいます。
一方、学校教育に頼るしかない子どもたちは、年1〜2回の体験授業のみ。
この差は、今はまだ小さく見えます。でも、5年後・10年後に社会に出たとき、「AIを使いこなせる人材」と「使われる側の人材」の差として、静かに、しかし確実に広がっていきます。
「気づかないうちに差がついていた」が最も怖い
経済産業省の試算では、2030年までに日本のIT人材は最大約79万人不足するとされています(2019年)。この不足を補う世代が、今の小学生たちです。
にもかかわらず、その小学生たちへの教育投資が「年1〜2回の体験授業」にとどまっているとすれば、国家レベルの人材育成戦略として、整合性が取れているとは言えません。
現場の担当者は悔しそうにそう言っていました。私も同じ気持ちです。誰かを責めても何も変わらない。ただ、この構造を多くの人が知ること、そして声を上げることが、変化の第一歩だと思っています。
エンジニア・経営者が行政との対話で見た現場の実態
今回、私は教育行政の担当者に直接会いに行きました。販売目的ではありませんでした。同じ地域に住む一人の大人として、子どもたちの教育に少しでも貢献できないか、という思いからでした。
担当者の方は、とても誠実でした。現状の課題を包み隠さず話してくれました。「本当はもっとやりたい。でも予算も、先生の時間も、仕組みも追いついていない。」そういう思いが言葉の後ろに隠されていると感じました。
私は今日のお話から、これは地方行政の問題でも、先生たちの問題でもないと確信しました。構造の問題です。国が設計した施策の問題です。
現場の人たちは、与えられた条件の中で精一杯やっています。その条件そのものを変えていく議論が、今の日本の教育には必要です。
よくある質問(FAQ)
Q. 小学校のプログラミング教育は、具体的に何を学ぶのですか?
A. 特定の言語を覚えるのではなく、「プログラミング的思考」を育てることが目的です。ScratchなどのビジュアルプログラミングツールやIchigoJamなどを使い、算数・理科・図工などの既存教科の中で実施されます。独立した教科ではありません。
Q. 小学校のプログラミング授業は週何回ありますか?
A. 学校によって大きく異なりますが、年間を通じて1〜数回という学校が多いのが現状です。毎週実施している学校は全国的にも少数です。必修化はされていますが、実施頻度の基準は定められていません。
Q. GIGAスクール構想でタブレットが配られたのに、なぜプログラミング教育が進まないのですか?
A. ハードウェアの整備と、教育の質は別問題です。端末があっても、使い方を教えられる先生の育成や、授業に組み込むための時間・予算が確保されていないため、活用が進んでいない学校が多い状況です。
Q. 民間のプログラミングスクールと学校教育の違いは何ですか?
A. 最大の違いは「継続性」です。民間スクールは週1〜2回の継続学習で思考力を積み上げます。学校教育は現状、年1〜2回の体験にとどまるケースが多く、学習の積み重ねが起きにくい構造です。
Q. 保護者として、今できることはありますか?
A. まず現状を知ることが第一歩です。その上で、民間の学習機会を補完的に活用すること、学校・PTAを通じて授業充実を求める声を上げることが現実的なアクションです。国の施策に任せるだけでなく、家庭・地域・企業が連携して動くことが重要な時代になっています。
Q. 日本のプログラミング教育は、海外と比べて遅れているのですか?
A. 分野によってはそう言えます。OECDのデジタル教育に関する報告では、エストニアやフィンランドなど北欧・東欧諸国では小学校段階から体系的なプログラミング教育が実施されています。日本は必修化こそされましたが、実施の深度・頻度・教員育成においては、先進国の中でも課題が多い状況です。
まとめ:小学校プログラミング教育の現状と、私たちにできること
必修化から6年。小学校のプログラミング教育は、制度の上では存在しています。しかし現場では、予算・人材・時間のいずれもが不足し、年に1〜2回の体験授業にとどまっているのが実態です。
これは現場の先生たちのせいでも、教育委員会のせいでもありません。国の施策として、教育の質を担保するための予算と仕組みが十分に整備されてこなかった結果です。
AI・デジタル技術が社会を変えていく時代に、子どもたちが必要な力を身につけられるかどうかは、今の教育環境に直接かかっています。この問題を「学校任せ」にするには、あまりにもリスクが大きい時代になりました。
ここまで読んで、少し焦りを感じた方もいると思います。それは正しい感覚です。ただ、難しく考えなくていいです。まずは現状を知ること、そして子どもに合った学びの機会を一つ探してみることから始めれば十分です。
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